本研究はPFZ組織形成過程における析出の動力学と粒界析出や原子空孔枯渇などの影響を明らかにするため、粒界を物質浴とする大正準モンテカルロ法を利用することにより、PFZに特徴的な微細組織を形成するキーファクターが何か、またその冶金的因子が形成過程をどのように決定するかを明らかとすることを目的とした。単純な空孔枯渇ならびに粒界同時析出による溶質枯渇モデルにより、粒界近傍の析出組織がどのように影響されるかを解明した。 さらに初期に粒界近傍に長範囲のようしく枯渇領域が形成されるような場合に考えられる駆動力分布に基づくPFZ組織の特徴としては析出物粒子間距離よりも相当に長い距離を持つPFZが形成されることが示され、その場合における溶質空間分布と析出物サイズとの相関はAl-Zn系など、いくつかの単純相分離系の合金に見られる特徴と定性的には一致し、その再熱処理や復元などの熱処理操作に対する組織の安定性、PFZ幅の時間変化についてもほぽ妥当な結果を得ることができた。一方、PFZ幅と溶質枯渇の領域の不一致にっいては、2元モデルでは組織を決定する熱力学パラメータをどのように設定しても説明不可能であることが明らかとなった。2元系の復元過程をともなう2段時効処理においては、空孔枯渇過程における2段時効処理とは異なり、明確なPFZ境界形成が促進され、PFZ幅が時間に依存しない時間領域をもつのに対し、3元系ではトラップ効果が働くことがこれらの違いを生じる原因となっていると予想し、微小セルでのモデル計算においてはその傾向を認めることができた。しかし境界条件側の連続体モデル接続部分については目処が立ったものの、2元系と同程度の効率による多元離散計算はまだ実現できておらず大規模シミュレーションによってPFZ組織形成過程を一度に可視化する計算にはまだ計算効率の問題が残されている。
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