研究課題
基盤研究(B)
マルテンサイト系耐熱鋼は化学プラントや火力発電、原子力発電などの高温・高圧部に使われる重要な高温構造材料である。発電プラントの発電効率の向上や地球温暖化ガスの発生抑制のためには蒸気温度、圧力をより高温・高圧にする必要がある。ところが、現在、火力発電などに用いられている耐熱鋼はすでに20年間使用されたものもあり、これからあと何年使用できるか、材料の寿命診断を精度良く行う必要がある。そこで本研究では、マルテンサイト組織の特徴を利用した高温クリープ余寿命評価法を開発することを目的とした。また、クリープ曲線をΩ解析して、組織劣化因子とΩ値の関係を明らかにすることも目的とした。これまで、本研究で導入した結晶方位解析システムを用いて、改良9Cr-1Mo鋼およびVとNbを添加した高Cr鋼のマルテンサイト組織をブロック境界とパケット境界に着目して定量的な組織解析を行ってきた。特に高Cr鋼では、Vの添加量を変化させてもマルテンサイト組織に大きな変化はなかったが、Nbの添加量増加に伴い、旧オーステナイト粒径が微細になることを明らかにした。また、クリープ曲線をΩ解析した結果、V添加量の増加によりΩ値が上昇し、Nb添加量の増加によりΩ値が減少することを明らかにした。最終年度では、VとNbを添加した高Cr鋼の微細組織をTEM、HAADF-STEMおよびSTEM-EDSにより詳細に解析し、各鋼種に存在する析出物を同定した。その結果、V単独添加により(Cr,V)析出物がラス境界を被覆することでラス境界の移動を抑制し、Nb単独添加によりラス内のMX型の析出物が転位運動を抑制することでクリープ強度を向上させていることが示唆された。また、VとNbの複合添加では、これらの加算則が成り立ち、クリープ強度の大幅な向上が起きることを明らかにした。さらに複合添加鋼では、しきい応力近傍でΩ値が上に凸の応力依存性を有しており、変形機構が遷移することをΩ値の変化から判別できることを明らかにした。
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