研究概要 |
本年度は,チタンアノード酸化皮膜の異種金属イオンの導入による構造制御に関して研究を行った。まず,マグネトロンスパッタ法を用いて,チタンへタングステンを添加した合金を作製し,そのアノード酸化皮膜の構造と誘電特性に及ぼすタングステン添加量の影響について調べた。チタンへ10at%程度のタングステンを添加すると,チタンアノード酸化皮膜の結晶化は抑制され,純チタン上では10V程度のアノード酸化電圧で起こる結晶化が100V近くまで起こらなくなった。さらにタングステン添加量を増やすと,結晶化電圧は上昇した。 結晶化が起こると,結晶性酸化物の周りにガスバブルが生成するが,そのガスバブルには,高圧の酸素ガスが存在していることを真空下で皮膜をスクラッチし,放出ガスを質量分析計で分析することにより,初めて確認した。このようにタングステンを添加することで,この結晶化とガス発生を効果的に抑制し,緻密な酸化皮膜が形成できた。タングステン酸化物は比較的誘電率が大きいので,20at%程度タングステンを添加してもチタン酸化物の高い電気容量を維持することから,新規キャパシタの誘電体として可能性があることが示された。 また,Ti-Zr合金系で,緻密な結晶性アノード酸化皮膜を形成するジルコニウムリッチな組成での電気容量の異常な増大現象について,詳細な検討を行った。その結果,電気容量と皮膜の結晶構造とに相関があり,皮膜組成の変化による単斜晶ZrO_2から正方晶もしくは立方晶ZrO2構造への変化が皮膜の電気容量の大きな増大の原因となっていることが明らかとなった。
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