研究概要 |
本研究では,酸およびアルカリ水溶液の樹脂中への侵入を検知するセンサーの開発を行うことが目的であり,初年度としては「樹脂の化学変化を伴わない腐食」の検出を試みた. 具体的には,まずpH指示薬には,酸性およびアルカリ性両側での呈色反応を起こすpH指示薬としてBTB(変色域pH=6.0〜7.6)およびBPB(変色域pH=2.8〜4.4)をとりあげた.また,環境液がすばやく浸透し,かつ化学変化を伴わない樹脂として,数種類のアミン硬化剤を用いたエポキシ樹脂で検討を行った.樹脂内へ2種類の指示薬をさまざまな条件で溶解混合を試みた結果,0.05phrにおいて溶解し,かつ十分な呈色を示すことが確認された. さらにこれらの硫酸水溶液環境下における呈色を検討した結果,BTBを用いた場合には硫酸だけでなく水でも緑色から黄色へ呈色するのに対して,BPBでは硫酸のみで青色から黄色への変色が認められ,水では大きな変色は認められなかった. 硫酸環境に暴露したBTB含有試料片の断面を観察した結果,接液側に形成される層状に変色した部分以外の,内側の層にもグラデーションを伴う変色が認められ,外側に硫酸の浸入層があるだけでなく,その内側には水が浸入していることも予想できた.そこで,X線によるS元素マッピングおよびカールフィッシャー水分計による水分分析を行い,上記の予測が正しいことを確認することができた. 以上の結果は,従来の研究より"水は溶質よりも早く浸入する"ことは予想されていたが,硫酸がステップ状に分布するのに対して水はFick則に近くグラデーションをもって分布していることも含めて,これらを可視化することに初めて成功した.
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