研究概要 |
金属材料等の表面に数ミクロンのセラミックス系硬質膜を被覆する表面処理技術が切削工具,摺動部材,精密金型をはじめとする工業分野で注目されている.カソディックアークイオンプレーティング法は物理蒸着法の1つであり,固体のアーク放電および高電圧のバイアスを印加するため,作製した膜には準安定な結晶構造が出現し,また優れた物理的特性を有することが知られている.これらの薄膜は,通常立方晶形のものが製品として使用されているが,立方晶から六方晶に相転移する領域で,特に高硬度を示すとの報告がある.しかしながら,電子顕微鏡やX線回折を用いた詳細な研究は報告例がなく,統一的に理解されていないのが現状である.そこで本研究では,金属原子を2種類以上含んだ多元系窒化物薄膜を作製し,X線回折法や高分解能透過型電子顕微鏡を用い,第2金属元素量および相変態に対する物性変化と微構造との関係を系統的に明らかにすることを目的とした. 16年度は,Ti_<1-X>Al_XNにCrを添加することでAl固溶限界の拡張を試みた.さらに作製した薄膜の熱処理による高温安定性およびアルミニウム原子の熱拡散が結晶構造に与える影響について調べた.立方晶Ti_XCr_YAl_ZNのAl固溶限界は73at.%まで増加し,立方晶から六方晶への相変態に対応し,微小硬度が29GPaから27GPaまで減少することがわかった.そして900℃に加熱すると,アルミニウム原子の熱拡散により立方晶から六方晶への結晶構造変化が生じ,1000℃では,格子定数が増加した. また,新規クロム系窒化物薄膜を作製するために,ボロン(B)元素添加による新たな硬質薄膜を作製した.具体的にはCr_<1-X>Al_XNをベースにB元素を添加し,微小硬度,微構造,耐酸化性を評価した.その結果,B元素を10at.%添加することによりCr_XAl_YB_ZNの硬度は27GPaから33GPaまで増加した.さらにB含有量の増加に伴い,格子定数は0.411nmから0.409nmまで減少した.
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