研究概要 |
17年度の目的は,クロム系4元系硬質薄膜をカソーディックアーク型PVD法により,切削工具,摺動部材および金型技術等へ応用することである.耐酸化,高硬度および耐摩耗性に優れたCr1-xAlxN膜を凌駕するため,TiおよびSiを添加し,格子定数および硬さを測定し,以下の結果を得た.また,切削工具,摺動部材に求められる特性である熱安定性について,熱処理後による(Ti,Cr,Al,Si)N膜の微構造,微小硬度の変化もあわせて調べた. ・(Ti,Cr,Al)N膜にSi元素を添加することにより耐酸化性の向上,微小硬度が上昇した. ・成膜時のバイアス電圧の増加に伴い,結晶構造がhexagonalからcubicへ配向した. ・熱処理前の膜表面に観察されているドロップレットと呼ばれる金属組成を主とする球状の塊が熱処理後の膜表面では減少し,膜表面および膜中に存在しているドロップレヅトが熱処理によって拡散したと考えた. ・バイアス電圧ごとの熱処理による硬さ変化を測定し,成膜時のバイアス電圧により熱処理前の硬さ,および熱処理後の硬さ変化が異なることを見出した.また,熱処理による結晶構造の変化もバイアス電圧により異なることを明らかにした. 全体として,Si添加が薄膜を硬化させることが明らかとなった.今後,高分解能電子顕微鏡を用い,原子レベルで薄膜-基板界面を断面から観察し,併せて有限要素法によりコンピュータシミュレーションする予定である.特に,基板として用いる超硬合金中のWCと薄膜との結晶方位関係も重要と考える.
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