研究課題
電気化学的漏洩遮断の定量的な評価を行うため、昨年度に続き多結晶アルミナ管を用いて、水素透過に及ぼす電圧印加の効果を調べた。まず電圧を印加しない状態の漏れを種々の温度において測定したところ、顕著な温度履歴を示すことが認められた。この現象を単結晶アルミナを用いて精密に解析したところ、焼成条件の高温において過飽和に溶解していたアクセプタードーパントが1300℃付近の温度で析出し、固溶量が減少してこれと電気的中性を保ちながら導入される水素欠陥の量が減少したためと判明した。1300℃付近で平衡にした試料について電圧印加を行い、漏れ量を解析した結果、漏れ量はアルミナ中の可動性欠陥を侵入型プロトンと正孔であるとして理論的に取り扱った結果と良く一致することが認められた。アルミナ中電場下での水素の挙動について明かとなったので、当初の目的である金属材料表面に生成した酸化膜中における検討を行った。合金成分の多い実用合金では種々の影響が現れることが判明したので、より単純な系を得るため。βNiAlを金属材料として選びその表面に生成する酸化膜の安定性から検討した。Niドープのアルミナが同じようなプロトン導電性を示すことは別に単結晶を用いてIR吸収および電導度のD/H同位体効果を調べることで確認している。βNiAl表面に高酸素分圧下でαアルミナ膜を作成し、その安定性を、膜を電解質と見なした水素濃淡電池の起電力で検討したが、再現性のある結果は得られなかった。測定後の観察で準安定アルミナと見られる相が生成し表面に亀裂が生じることが分かった。これはプロトンとの両極性拡散によりアルミニウムイオンの拡散が加速され、準安定相が生成したものと考えられる。安定なαアルミナ膜が得られないことから電圧印加状態でも短絡や高抵抗状態が生じ、当初考えていた電気化学的遮断の応用範囲はかなり限定されることが明かとなった。
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