本研究ではコア・シェル型のマイクロカプセルのコア部に、反応部位である酵素グルコースオキシダーゼ(以下GOD)を封入し、シェル部の多孔膜細孔内部にpHに応じて相転移を示すN-isopropylacrylamide-Acrylic acid(以下NIPAM-AA)共重合ポリマーをグラフト固定した新しいマイクロカプセルリアクタを開発する。系のpHが高いときには細孔内部のpH認識ポリマーが親水性であるため、系中に存在する基質であるグルコースは細孔内部に拡散しやすく、それに伴いGODが触媒する反応が進行する。これに対し系のpHが低いときには細孔内部のpH認識ポリマーが疎水性であるため、系中に存在する基質であるグルコースは細孔内部に拡散しにくく、それに伴いGODが触媒する反応が進行しなくなる。つまり基質のゲートでの拡散性の差を利用して、これを反応性の差とするものである。膜乳化法を用いて単分散のエマルジョンを作成し、その後、界面重合を行うことによりコアシェル型のマイクロカプセルを作成することに成功した。このコアは空洞であり、シェル部は数十nmの細孔を有する多孔膜となっている。さらにプラズマグラフト重合法によりシェル部に上記の刺激応答グラフト鎖を固定し、細孔内でグラフト鎖が膨潤・収縮することにより気質の拡散を制御できることを確認した。また、一般に内部に封入する酵素活性の失活が問題になるが、本研究ではマイクロカプセル内に酵素を閉じこめた後に、酵素封入マイクロカプセルにプラズマグラフト重合手法を用いてシェル膜の細孔内部にpH認識ポリマーを固定した。プラズマグラフト重合条件下にGODをおいても、GODの活性は、ほぼ完全に維持されることを確認した。コアシェル型のマイクロカプセル内部に酵素を封入し、さらにそのシェル部がpHに応答して細孔を開閉するカプセルの開発に成功した。今後、提案しているよう反応を膜細孔で制御し、細胞のように刺激(ストレス)に応じて反応を制御するリアクタとなることを実証する予定である。
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