高付着性細菌Acinetobacter sp.Tol5は、付着に関わる粘着蛋白質として、三量体型オートトランスポーターアドヘシン(TAA)を有していることを遺伝子解析より明らかにした。Tol5のTAAとして下記の特徴を明らかにした。 (1)約290kDaもの分子量を持つ非常に巨大なポリペプチドから成る。 (2)既報のTAAと、シグナルペプチド、ヘッド、ネックの部位は30〜40%の相同性を有し、特に歯周病菌の持つものとの相同性が一番高い。しかし、ストーク部位の相同性はほとんどない。 (3)既報のTAAは病原性細菌が有するもので、ホスト細胞やコラーゲンやフィブロネクチンなどのECMなどに対し特異的に付着するのに対し、Tol5のTAAはプラスチックなど、非生物表面に非特異的に、しかも強力に付着する。 一方、Tol5株は、粘着蛋白質としてTAA以外にタイプIピリを有することを、表層蛋白質の解析から明らかにした。この蛋白質の発現量は、TAAの構造遺伝子の破壊により著しく低下することから、TAAの発現によってタイプIピリの発現が正に制御されていることが示唆された。Tol5細胞が有する二種類の粘着ナノファイバーのうち、周毛性繊維がタイプIピリであり、アンカーがTAAである可能性が高い。しかし、これらナノファイバーが伸長している様子を電子顕微鏡で捉えることに成功した結果、アンカーは3μm以上にもなることが明らかとなり、既報のTAAの高次構造では、アンカーの構造を説明できないことも示された。Tol5の粘着蛋白質は、全く新しい高次構造をとるユニークな粘着蛋白質であると思われる。
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