研究概要 |
酵素を細胞表層に提示した酵母を用いての有用物質の生産が広く研究されている。しかしながら、複数種の酵素を各酵素の割合や並び方を制御しながら提示するとともに、提示酵素量をさらに増加させることが、今後の大きな課題である。本研究は、酵母細胞表層というナノレベルの空間に多種、多量の酵素を提示するとともに、その配置制御ができるナノファブリケーション法を開発することで、より複雑な反応でも効率よく行える細胞触媒を確立することを目的とする。そのために、セルロース分解能の高い事で知られる嫌気性微生物などが持つ、バイオマス分解酵素複合体であるセルロソームの酵素提示様式を模倣する。具体的にはセルロソームの骨格タンパク質cohesin(コヘシン)とそれに特異的に結合するdockerin(ドックリン)、および抗体Fcとそ,れに特異的に結合するFcを用いる。すなわち特異性の異なるコヘシンやZZを連結し、酵母細胞表屑結合タンパク質Flo1を用いて細胞表層に集積させるとともに、提示すべき酵素を対応するドックリンやFcと融合させて分泌発現させることで、細胞表層で会合させて超分子複合体を形成させる。この手法では、コヘシンやZZの連結順序・数と酵素への対応するドックリンやFcの融合によって、様々なタンパク質の割合と空間的な配置を制御しつつ、多量に酵母細胞表層に提示できる。本年度はコヘシン-ドックリンやZZ-Fc相互作用を用いたナノレベル配置制御型の発現系を確立した。さらに、コヘシン-ドックリンやZZ-Fc系を組み合わせることで、セルロース分解性に優れた、Tricodelma reeseiやAspergirus acuratausのセルラーゼ群(エンドグルカナーゼ、β-グルコシダーゼ)を細胞表層にナノファブリケーションすることが可能であることを明らかにした。この酵母を用いることで、セルロース系のバイオマス資源を効率よく酵母の細胞表層で分解して、それを酵母によりエタノール発酵させることが可能であることを示した。
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