発生形態の環境に依存した可塑性について、エゾアカガエルのオタマジャクシをモデル生物として、実験的研究を行った。サンショウウオとトンボのヤゴは、エゾアカガエルのオタマジャクシにとって危険度の高い捕食者である。それぞれの捕食者は捕食方法が異なる。エゾアカガエルのオタマジャクシは、それぞれの捕食者の存在下で異なる形態が誘導された。エゾサンショウウオに対しては頭胴部の膨満形態が誘導された。トンボのヤゴに対しては尾高が高まった形態が誘導された。それらの形態は、それを誘導した捕食者から捕食される危険を低減させる機能を持つことが明らかとなった。 オタマジャクシは発生の過程で、2種類の捕食者危機を入れ替わりで体験することがある。(1)それぞれのタイプの捕食者に適応した誘導形態が、発生の過程で経験する捕食者の入れ替わりに対応して臨機応変に変換誘導されるか、(2)一度誘導された形態が、捕食危機の消失に対応して通常形態に戻る可逆性があるかは、発生プロセス途上における誘導防御デザインに関する重要な興味となる。そのような誘導防御の臨機応変性は、形態発生軌道のcanalizationによって阻止されることが可能性の1つである。捕食危険環境の入れ替えによる防御形態の可塑性・可逆性を調べたところ、捕食者の交替に対応して誘導形態は適応的可変性を示し、捕食危機の消失に伴い防御形態から通常形態へ戻る可逆性を示した。エゾアカガエルのオタマジャクシは、発生過程における形態のcanalizationに制約されることなく、捕食者危機の時間的変化に対応する形態可塑性を有していることが明らかとなった。
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