発生形態の環境に依存した可塑性について、エゾアカガエルのオタマジャクシをモデル生物として、実験的研究を行った。サンショウウオの幼生とトンボの幼生(ヤゴ)は、エゾアカガエルのオタマジャクシにとって危険度の高い捕食者である。それぞれの捕食者は捕食方法が異なる。エゾアカガエルのオタマジャクシは、それぞれの捕食者の存在下で異なる形態が誘導される。エゾサンショウウオに対しては頭胴部の膨満形態が誘導され、ヤゴに対しては尾高が高まった形態が誘導される。それらの形態は、それを誘導した捕食者から捕食される危険を低減させる機能を持つことが分かっている。 北海道渡島半島の西に位置する奥尻島には、エゾアカガエルが分布する。本島には捕食者であるヤゴはいるが、エゾサンショウウオはいない。奥尻産のエゾアカガエル、北海道産のエゾアカガエルの繁殖親(雌雄)を採集し、人工授精により、純系・交雑交配をおこない、純系・交配系のオタマジャクシを作った。 それらのオタマジャクシが、エゾサンショウウオ幼生あるいはヤゴによる捕食の危険に対して、誘導防御形態を示すか、どのような誘導防御形態を示すかを調べた。その結果、オタマジャクシが、サンショウウオ幼生に対して発現させる膨満形態は、奥尻産純系オタマジャクシでは膨満度が低く、交雑系では北海道産純系と奥尻産純系の中間の程度を示した。このことは、交配系の雌雄を奥尻産・北海道産で入れ替えた場合も違いはなかった。この結果は、膨満形態誘導は相加的遺伝成分によって支配され、それらは常染色体上に存在することを示唆する。 一方、ヤゴに対する防御形態は、北海道産・奥尻産純系、交雑系で違いは見られなかった。 本研究でえられた捕食選択圧の有無と形態誘導の程度が示すパターンから、捕食者特異的に発現する形態は自然選択の対象であることが示唆される。
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