光が存在する水界の硫黄循環に関与する微生物の起原を探索するため、いくつかの高温環境下に生息する微生物群集の分子生態学的解析を行った。標的とした遺伝子は、微生物学的硫酸還元の基幹酵素であるアデニール硫酸還元酵素(APS)をコードする遺伝子および系統学遺伝子のスモールサブユニットリボゾームRNA遺伝子(ssuRNA)である。環境中から直接核酸を抽出し、抽出核酸DNAを鋳型としてプライマーを用いてPCR増幅を行った。中程度の高温環境(60-65℃)で発達する高密度微生物マットでは、現場培養及び室内実験の結果、光存在下でマット内部硫黄サイクルが成立していることが明らかとなった。系統遺伝子ssu rDNAの塩基配列結果から、マット内では好熱性硫酸還元菌であるThermodesulfobacterium用微生物、好熱性硫黄酸化細菌であるSulfurihydrogenium様微生物、そして好熱性光合成細菌Chloroflexus様微生物(原始的光合成細菌)が検出され、3者のグループの微生物が、光が存在する高温環境で発達する微生物マット内で硫黄の酸化と還元に寄与していることことが明らかとなった。Thermodesulfobacterium、Sulfurihydrogenium、そしてChloroflexusは系統進化上、生命の共通祖先が誕生してから早い時期に出現した系統群であることが知られている。以上のことから、硫黄をめぐる上記3者の相互作用は、光を生物が利用した始めた頃の地球の生態系をモデルとして考えられた。一方、水温が10〜25℃の部分循環湖では、プロテオバクテリアに属する微生物が硫黄循環に関与し、その代謝経路は複雑化していることが明らかになり、地球環境の温度が減少していく過程で硫黄循環システムも複雑化していくことが示唆された。
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