微生物学的硫酸還元は、無酸素環境で硫酸塩を硫化物に還元する反応であるが、34.7億年前の地球ですでに行われていることが示されている。しかし、現在の水界生態系で観察される、多様な硫黄循環システムとそれを担う微生物群集が対古代からどのようなメカニズムで共進化して来たかは未解明である。そこで、本研究は、水界の硫黄循環システムと微生物群集の共進化を分子生態学的に解明とすることを目的とする。現場環境で成立している微生物群集の系統遺伝子及び機能遺伝子の解析と物質代謝データを包括的に行うことにより、生物による硫黄酸化及び硫酸還元の起源を探り、硫黄循環システムとそれを担う微生物の相互作用が地球の酸化-還元、温度、光条件等の変化でいかに変遷して来たかを明らかとした。70〜80℃の陸上温泉で発達する微生物マットでは、好熱性硫酸還元菌であるThermodesulfobacterium様微生物及び好熱性硫黄酸化細菌であるSurifurihydrogenium様微生物で構成されていた。微生物マット内では、両者が硫黄循環に関与していることが確認された。両菌は分子系統進化学上生命の共通祖先に比較的近いことから、太古代の地球では、両菌による硫黄循環システムが原始タイプであることが推察される。一方、60〜65℃で発達する微生物マットでは、両菌に加え、好熱性光合成細菌であるChloroflexus様微生物(原始的光合成細菌)で構成され、硫黄循環システムに光合成が組み込まれることが明らかとなった。さらに、中温型の部分循環湖である貝池や淡水湖である琵琶湖では、プロテオバクテリアに属する多種の微生物が硫黄循環に関与し、その代謝経路は複雑化していることが明らかとなった。以上のように、地球環境の温度が減少していく過程で硫黄循環システムも複雑化していくことが示唆された。
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