研究概要 |
シロイヌナズナのシスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)はメチオニン生合成の鍵段階を触媒するが,他の多くの鍵段階の酵素とは異なってアロステリック酵素ではなく,S-アデノシルメチオニン(SAM)をエフェクターとして,CGS mRNAの分解段階でフィードバック制御を受ける.この制御にはCGSの第1エキソン領域にコードされるMTO1領域と名付けた十数アミノ酸からなる領域がシス配列として重要な機能を持つ.また,mRNA分解に際しては,分解中間体として5'末端領域を欠いた短いRNAを生ずる.CGSの制御は翻訳中に起こり,コムギ胚芽抽出液の試験管内翻訳系で再現される.試験管内翻訳系を用いた解析により,mRNA分解に先立ってSAMに応答した翻訳伸長の停止が起こり,これが引き金となってmRNA分解が起こることが示された.翻訳伸長の停止はMT01領域の直後のSer-94で起こり,これに伴ってペプチジル-tRNA(Ser)が蓄積する.翻訳停止領域近傍のアラニン置換により,MT01領域のアミノ酸配列に加えて,Trp-93とSer-94コドンが翻訳停止に重要であることが明らかになった.リボソームで合成された新生ペプチドはリボソームの大サブユニットの中を貫いている出口トンネルを通って外に出る.この出口トンネルは直径15-20Å,長さ約100Åと見積もられており,30-40アミノ酸残基の新生ペプチドが出口トンネル内に存在するとされている.翻訳停止位置(Ser-94)とMT01領域の位置関係から考えると,翻訳を停止したリボソームにおいて,MT01領域の新生ペプチドは出口トンネル内に存在すると考えられる.一方,CGSの制御を遺伝学的に解析するため,シロイヌナズナ変異株の分離と解析を行い,CGS発現の転写後制御に関わると考えられる新規遺伝子を同定した.
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