ニンジンおよびシロイヌナズナを用いた昨年までの研究で、不定胚形成能誘導時に発現する多数の遺伝子のうち、クロマチンリモデリングに関わると考えられる因子に関する研究を進め、クロマチンリモデリング因子が制御する胚特異的転写制御因子の1つがLEC1であると考えられた。そこで、クロマチン免疫沈降法を用い、LEC1の数カ所のゲノム遺伝子領域について、ヒストンH3のK4メチル化の不定胚と分化した体細胞での変化を調べたところ、プロモーター領域、転写開始点領域、第1イントロン、第2エキソンで変化が認められた。一方、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)遺伝子群のうち、種子発芽(胚としての機能抑制)に関わる因子を単離するため、HDACのさまざまな変異体や過剰発現体を用い、HDAC阻害剤の効果を指標として解析した結果、本現象にはHDA6、HDA19、HDT2が関与する可能性が示された。また、HDAC阻害剤による発芽抑制効果は、LEC1変異体では観察されるが、他の胚特異的転写制御因子であるLEC1やABI3の変異体では見られないことから、胚発生制御に関わるHDACのターゲットがLEC1特異的であることも明らかとなった。さらに、ヒストンのメチル化修飾に関与すると考えられる32種のSET遺伝子について詳細な発現解析を行い、不定胚誘導時に発現が上昇する遺伝子が7種類、発現が抑制される遺伝子が3種類存在する事が明らかとなった。そこで、不定胚誘導時に発現が上昇した遺伝子について、in situ hybridization法を用い、種子胚での発現を調査したところ、EZA1では種子胚で強く発現することが明らかとなった。動物では、胚特異的ヒストンが存在し、胚発生において重要な役割を演じていることが明らかとなっていることから、シロイヌナズナゲノム中に存在する全てのヒストン遺伝子についてその詳細な発現解析を行い、HTB6が胚で極めて高い発現を示すことが明らかとなった。
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