研究課題
空色西洋アサガオ(Ipomoea tricolor cv. Heavenly Blue)は、開花時に赤紫色から空色へと劇的に色を変化させる。この花色変化は、花弁表層にある着色細胞の液胞pHだけが、ツボミの時の6.6から開花時の7.7へと上昇するためであることをすでに明らかにした。しかし通常、植物細胞の液胞pHは弱酸性とされ、アサガオの着色液胞pHが開花時に弱塩基性の値にまで上昇する現象は、不可解でかつ興味深い。そこで、この機構の解明を目指し研究を行った。開花時に液胞pHが上昇するのは、表層の着色細胞だけであることから、花弁の短時間の酵素処理により着色プロトプラストだけを調製し、これを用いて、pH制御に関わると推測される輸送タンパク質の解析を行った。同時に、細胞内のイオン分析を行った。その結果、Na^+/H^+対向輸送体として命名された経緯があるにもかかわらず、アサガオ細胞内には、Na^+は検出されなかった。最も多く検出された陽イオンはK^+で、その細胞内含有量は開花に伴い上昇し、NHX1の発現量の上昇と極めて良い一致を示した。これに対して陰イオンはCI^-やリン酸イオン、リンゴ酸イオンが検出されたものの、含有量も少なく、開花に伴う量の変動もさほど認められなかった。このことから、NHX1がアサガオの着色細胞ではK^+/H^+対向輸送体として機能していることが明らかになった。さらに、開花にともないアサガオの花弁の表層細胞の体積は数倍に増加し、この現象と花色の青色化、およびK^+量の増加が同調していることがわかった。即ち、アサガオ開花時の液胞膜上のプロトンポンプ、NHX1および細胞膜上のプロトンポンプの発現量の増加と活性上昇は、液胞内へK^+を輸送して細胞を伸長生長させるために必須の装置ではないかと考えられる。
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