根毛形成におけるリン脂質シグナル伝達経路の中でPLDの上流に位置する因子としては、これまでの報告からRop2を含むRhoファミリー低分子Gタンパク質がその一つである可能性が高い。そこで、Rop2とAtPLDζ1との間の相互作用をin vitroにおいて大腸菌で作らせた組換えタンパク質(Hi_<S6>-Rop2とGST-AtPLDζ1)を用いて調べた。その結果、それらの組換えタンパク質は特異的に物理的相互作用をし得ることが判った。 PLD下流の因子に関しては、PAとの結合が予想されるタンパク質の一つとしてPI(4)P5Kが考えられる。シロイヌナズナに11種類存在するPI(4)P5K遺伝子のcDNAのタンパク質コード領域をすべてクローニングした結果、その中の一つの遺伝子ではスプライシングパターンの異なる複数種のcDNAが存在することが判明した。また、それら遺伝子の発現を器官別に調製されたRNAを用いてNorthern法により解析した結果、花器官で強く発現しているもの、根特異的に発現しているものなどが見い出された。 AtPLDζ1およびAtPLDζ2に関するプロモーターGUS融合遺伝子をそれぞれ有する形質転換シロイヌナズナを用いて組織化学的なプロモーター解析を行った。その結果、AtPLDζ1では増殖組織を中心に、花粉を除く植物体全体でプロモーター活性が観察されたのに対して、AtPLDζ2では花粉でのみ強いプロモーター活性が見られた。このことから、AtPLDζ1とAtPLDζ2が組織特異的に役割分担をしているものと考えられる。
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