研究概要 |
ある種の魚類でみられる性転換は生物学的に非常に興味深い現象である。なかでもオキナワベニハゼ(Trimma okinawae)は、同一個体に卵巣と精巣が存在し、それら各々の機能が社会的構造を換えることによって逆の方向に発達する。本研究では、視覚刺激によって同一個体内の2つの生殖腺で起こる逆方向の形態的変化に先がけて起こる遺伝子発現パターンの変動の詳細を明らかにする。また、ベラなどにみられる一方向の性転換についても同様な解析を行う。 先ず、オキナワベニハゼの雌から雄への性転換は5日間、逆に雄から雌への性転換は約10日間で誘起されることを示した。この実験系を駆使して、視覚刺激の入力から8時間以内に性行動の転換、12時間以内に生殖腺における生殖腺刺激ホルモン(FSH,LH)受容体遺伝子発現の急激な変動が起こることを明らかにした。さらに、卵巣と脳から2種類の芳香化酵素遺伝子(卵巣型P450arom、脳型P450arom)をクローニングした。卵巣型P450aromは脳、脾臓、精巣、卵巣に発現がみられ、一方、脳型P450aromは脳、肝臓、精巣、卵巣に発現がみられた。In situ hybridizationによる解析では、卵巣型P450aromのみが卵巣と精巣に発現を示し、その発現細胞は卵巣では顆粒膜細胞、精巣ではライディッヒ細胞であった。定量的RT-PCRによる解析から、卵巣型P450arom mRNAは生殖周期に伴って変動を示したが(卵黄形成期に高く、産卵後に減少)、脳型は卵巣にはほとんど発現がみられず、生殖腺の発達に伴って上昇することもなかった。 以上の結果から、オキナワベニハゼの両方向の性転換には、生殖腺刺激ホルモン/生殖腺刺激ホルモン受容体系が重要な役割を果たすこと、更には、卵巣の発達(雌への性転換)には卵巣型P450arom遺伝子の発現のオン/オフが重要な鍵となることが明らかになった。
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