研究概要 |
本研究は,主に我が国沿岸に生息する寄生性渦鞭毛藻類の多様性を明らかにし,それらの進化過程を解析することを目的に進めている。本年度は,海産の動物プランクトンに寄生する渦鞭毛藻類を中心とする研究をおこなった。その結果,Amoebophrya属(宿主:渦鞭毛藻),Hematodinium属(宿主:カイアシ類),Dubosquella属(宿主:有鍾繊毛虫類),Oodinium属(ヤムシ類,オタマボヤ類),Blastodinium属(宿主:カイアシ類),Ellobiopsis属(アミ類)に属する寄生性種の存在を確認した。これらについて,単細胞PCR法を用いて遺伝子(18SrRNA遺伝子)の増幅をおこない,系統解析をおこなった。その結果,Amoebophryaでは,寄生する渦鞭毛藻との間に種特異性は無いらしいことが明らかとなった。また,瀬戸内海産のカイアシ類の寄生生物は,分子および微細構造の結果からHematodiniumの1種と同定した。Hematodiniumは通常,エビ,カニの寄生生物であり,カイアシ類からの発見は初めてである。瀬戸内海から新種記載されたOodinium inlandicumは韓国沿岸からも見いだし,記載した。また,本種と本属のタイプ種であるO.pouchetiiの分子系統解析をおこなったところ,両種は姉妹群となり,瀬戸内海産の種の本属への分類の妥当性が示された。このクレードは自由生活性の渦鞭毛藻類の中に位置することはわかったが,他の自由生活性のグループとの系統関係は明らかにはならなかった。分子系統解析の結果は,寄生性の渦鞭毛藻類は,自由生活性の渦鞭毛藻類から何回か独立に進化してきたらしいことを示している。今後は,多様性の解析を継続するとともに,別の遺伝子を用いて,寄生性渦鞭毛藻類の初期進化の過程を明らかにしていく必要がある。
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