研究概要 |
シダ植物の配偶体は,軸状から扁平は心臓型へ,そして着生など特殊な生態条件への適応からリボン型,糸型などへ進化したと推定されている。本年度は,軸状と心臓型をつなぐ,塊状配偶体の形態形成を,系統解析から原始的とされるリュウビンタイとゼンマイを用いて明らかにした。胞子発芽後すぐに配偶体は多層となり,その上部に1層の細胞層領域が周縁を取り巻くように形成された。リュウビンタイでは周縁から離れるとすぐに表面に平行な分裂を行うため,一層の領域が広がることがなかったが,ゼンマイではこの1層の領域の上部中心に1個の頂端細胞が形成され,その働きで1層の領域が左右相称に成長し,心臓型の配偶体が形成された。すなわち,軸状から扁平になった配偶体に,頂端細胞の獲得によって,跳躍的に塊状から心臓型への形態進化が跳躍的に起きたことが推測された。また典型的な心臓型を示すカニクサの観察から,心臓型配偶体を作る3つの分裂組織(頂端分裂組織,周縁分裂組織,クッション分裂組織)を識別した。頂端分裂組織は頂端細胞か複数の頂端細胞群と派生細胞から構成される。周縁分裂組織は,頂端分裂組織から側方に切り出された細胞が垂層,並層分裂をさかんに繰り返して翼を形成する分裂組織である。またクッション分裂組織は,配偶体表面に対して平行な分裂によって多層なクッションを作り,その表面からは造卵器が形成される。これら3つの分裂組織は本来独立したものである。心臓型では3つが同時に働く事により,形が形成されるが,リボン型では頂端分裂組織と周縁分裂組織が時間的に独立して働くことが推測される。クッション分裂組織は,リボン型配偶体ではしばしば大きく遅れて形成される。上記2つの研究内容については,平成17年3月の第4回日本植物分類学会にて発表し,心臓型配偶体とリボン型配偶体の原形質連絡分布様式については,TEM観察によって現在検討中である。
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