研究概要 |
昨年度までの研究から,全く形態の異なる心臓形配偶体とリボン形配偶体の両方に頂端分裂組織と周縁分裂組織が存在することが示唆されていた.そこで本年度は,Barlowの数理モデルを応用し,心臓形,リボン形配偶体に,ともに頂端分裂組織の両側方に周縁分裂組織が存在することを明らかにした.両形の違いは,両分裂組織の大きさの違いによってもたらされることが示唆された.形態進化の筋道を明らかにするため,さらに心臓形配偶体5科5属,リボン形配偶体1属1種の形態形成過程を,連続表面観察法を用いて明らかにした.それらのデータと,先行研究による解析結果,文献による情報に基づき,zbcLを用いた近隣接合法による系統樹(先行研究)に,それぞれの属の配偶体が示す配偶体の形態--(1)塊状,(2)左右相称心臓形,(3)左右非相称心臓形,(4)ストラップ状(数細胞列から構成される幅のある糸形),(5)糸状(1細胞列),(6)リボン形,(7)異型胞子性の水生シダ類,そして(8)未知(unknown)の形質を最節約配置し,シダ類の形態進化過程を推定した.その結果,左右相称心臓形からリボン形,左右非相称心臓形の形態が派生したことが推測された. 以上の結果から,どのような形であっても配偶体形成には頂端分裂組織が必須であることが示された.そこで頂端細胞の機能推定を目的として,典型的な左右相称心臓形を示すカニクサ配偶体を用いて,UVレーザー波による精確な細胞除去実験を行い,頂端細胞,頂端分裂組織の除去を行った.その結果,頂端細胞を破壊された配偶体は,その近接部に新しい頂端細胞を再生し,その新頂端細胞を除去すると,更に2個目の新頂端細胞が形成されたことから,頂端細胞は幹細胞の機能をもつことが強く示唆された.
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