研究概要 |
シダ植物の配偶体は塊状で地中生のものから、地上生で扁平な心臓形、そしてリボン形や糸形さらに不定形など多様な形態を示し、それらはシダ植物の進化過程と密接な関係があると考えられている。本研究で培養が困難とされてきたハナヤスリ科の塊状配偶体も含めて、多様な群の胞子を人工的に培養し、同一個体の連続観察から詳細な発達過程を明らかにし、配偶体の形態進化過程を推定した。塊状配偶体では、胞子発芽後ランダムな分裂によって形成される塊状部に、後で一部に分化する頂端分裂組織の働きにより軸状の配偶体が形成される。一方、シダ類の初期に分岐したと考えられるゼンマイ科などでは、胞子発芽後初期にやはり、基質に平行面での分裂により多層化が進むことがわかった。しかし先端部の一部に1層の細胞層が残り、ここに形成される2つの分裂面をもつ頂端細胞が形成される。そしてこ頂端細胞の働きによって扁平な心臓形部が付け加わる事が示された。以上から、塊状と扁平(心臓形)の違いは、初期に完全に塊状をなすか、一部に1層部が残るか否か、また頂端細胞の分裂面が2つか,3つかで決まると結論づけられた。心臓形が一般的であるのに対し、リボン形はウラボシ科など派生的な群にみられる。NCBIなどに登録されているrbcL遺伝子とrps4遺伝子の情報をもとにNJ法によって、シノブ科を外群とするウラボシ科、ヒメウラボシ科シダ類全体の系統樹を作成し、配偶体形態情報を配置した。その結果,心臓形からリボン形へ,そして心臓形から不定形への進化がいくつかの分類群で起きたと推定される。リボン形へ進化は、頂端分裂組織の働きに比べ、隣接する周縁分裂組織の働きが強くなったことによって起こり,不定形配偶体では、発生初期に働く頂端分裂組織が途中で消失し、完全に周縁分裂組織に置き換わるとともに、頂端分裂組織を頂点とする極性軸が消失した。
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