研究課題
本研究で対象とする2つの脳領域(キノコ体、中心体)のうち、本年度は前者の解析を完成させ、後者の解析を新たに展開した。まず、キノコ体について、昨年度発見した「傘部」の新しい入力部位から「葉部」への投射を解析し、その結果、他の入力部位からの投射は葉部に整然とした層状構造を作るのに対し、この入力部位からの投射は、層的には中心層の最外部に限局されるものの、多数の結節を持ち、不規則な投射を示す、極めて特殊な構造であることを解明した。また傘部と脳の各部を結ぶ神経経路を同定した結果、この入力部位の神経は、他の神経とことなり嗅覚系からの情報を受け取らず、脳のより高次の領域からの信号を受けていることが分かった。葉部については、昨年度同定した葉部と脳の各部を結ぶ神経の構造をさらに詳しく解析した結果、葉部の縦分岐と横分岐では接続されている脳領域に違いがあるだけでなく、葉部を構成する各層の間にどの程度の層間連絡があるかという点でも大きな違いがあることが分かった。これらを総合して、傘部、葉部、脳の他の各部位との間にどのような連絡があるかをまとめた論文を現在取りまとめている。中心体については、GAL4エンハンサートラップ系統を用いて脳前方、脳後方正中部、脳後方側方部の3ケ所から投射する神経細胞群を昨年度に同定したが、視覚情報の学習記憶処理にこれらの神経が関与している可能性が考えられたため、これらの系統を用いてドイツ・中国の研究室と共同研究で行動実験を行った。その結果、特に脳後方側方部から投射する神経が、視覚情報の特異的な要素の学習に関与していることが示された。さらにこの知見をふまえ、低次視覚中枢で処理された視覚情報が中心体に伝達される経路を解明するため、低次視覚中枢と中心体の中間に位置する二次視覚中枢である、前部視覚中枢(vlpr)の構造を抗体染色によって解析した。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
Nature 439
ページ: 551-556