研究課題
基盤研究(B)
脊椎動物の神経化と初期パターン形成の分子メカニズムの一端を明らかにするため、予定中脳後脳領域に特異的に発現するbHLH型転写抑制因子XHR1の発現調節機構と機能解析を行い、以下の2点を明らかにした。1)発現調節機構の解析:2倍体ツメガエルXenopus tropicalisのXHR1(XtHR1)遺伝子を含む約25kb領域にeGFPあるいはルシフェラーゼをレポーター遺伝子として挿入し作成した全長コンストラクト-11/14XtHR1-GFPと-11/14XtHR1-Lucを基に種々の欠失コンストラクトを作成し、DNA顕微注入法あるいは精子核移植法を用いて胚へ導入し発現制御領域の検討を行った。その結果、原腸胚初期の予定MHB領域に発現をもたらす領域を-6〜-7kbの位置に見出し、「初期エンハンサー領域(EER)」と命名した。さらに尾芽胚期のMHB領域に発現をもたらす領域を-1.5〜-2kbの位置に見出し、「後期エンハンサー領域(LER)」と命名した。これらの結果は、HR1遺伝子は原腸胚初期にはEERを介して予定MHB領域で発現誘導を受け、その後の予定MHBとMHB領域ではLERを介して発現が維持されることが示唆された。一方、アニマルキャップ(予定外胚葉外植体)実験において、XHR1遺伝子はBMP阻害による神経化に応答して発現誘導される。そこで神経化因子nogginとXbra-enRに応答する領域(NRR)を同定したところ、NRRはEERと重複することが判明した。この結果は、オーガナイザーによるは神経誘導作用がEERを介してXHR1の発現誘導を引き起こすことを示唆している。2)機能解析:XHR1の標的遺伝子候補として同定されたbHLH型転写抑制因子ESR1(E(spl)-related 1)に関して、XHR1-VP16-GRによるタンパク質合成阻害因子下における活性化実験、XHR1の過剰発現実験、およびアンチセンスモルフォリーノオリゴ(MO)による機能阻害実験、ESR1の過剰発現実験を行った。その結果、ESR1はXHR1の直接の標的遺伝子であり、XHR1はESR1の発現抑制に必要十分であること、ESR1の過剰発現によってMHB遺伝子であるPax2の発現が抑制されたことから、XHR1によるESR1の発現抑制がMHBの領域化に重要であることが示唆された。さらに、ニューロン形成に関わるESR1はNotchの下流で活性化されるが、XHR1はNotchでは活性化されず、neurogenin、Deltaを抑制する働きがあることから、XHR1はプリパターン遺伝子として働くと考えられる。以上より、神経誘導と初期パターン形成により発現誘導を受けるXHR1が予定MHB領域を規定し、それにより脳のオーガナイジングセンターであるMHBが形成される分子カスケードのモデルが示された。
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