研究概要 |
本研究は、脳の初期パターン形成の分子カスケードを明らかにするため、(1)アフリカツメガエルの原腸胚初期の予定中脳後脳境界(pre-MHB)領域に発現を開始するbHLH-WRPW型の転写抑制因子XHR1に注目し、XHR1の標的遺伝子の解析によりその役割を明らかにすること、(2)XHR1がpre-MHB領域に発現を開始する分子機構を明らかにするため遺伝子の発現制御領域を同定することを目的とした。(1)に関しては、ドミナントネガティブ型XHR1を用いたディファレンシャル・マクロアレイ・スクリーニングにより同定されたXHR1の標的遺伝子候補の14個のクローンを解析した。ホルモン誘導型ドミナントネガティブXHR1(XHR1-VP16-GR)を用いた過剰発現実験と、アンチセンス・モルフォリーノ・オリゴによる機能阻害実験から、XHR1はpre-MHB領域におけるbHLH-WRPW遺伝子ESR1の発現抑制に必要十分であることが示された。またESR1の過剰発現でMHB遺伝子Pax2の発現が抑制されることが示された。これらの結果よりXHR1は、標的遺伝子の一つとしてESR1の発現を抑制することで初期のpre-MHB領域を特定化しMHB遺伝子の発現をもたらす、すなわちプリパターン遺伝子であることが示唆された。同様にbHLH-WRPW遺伝子ESR3/7とESR9、転写活性化補助因子XLCL2、およびニューロン形成に関るXdelta1等もXHR1の標的遺伝子であることが示唆された(Takada et al.,2005)。(2)に関しては、まず神経化因子やWnt、FGFなどのシグナル伝達を阻害あるいは更新させる種々の因子をアフリカツメガエル胚に発現させ、XHR1の発現変化を検討した。その結果、XHR1は神経化因子により発現誘導を受け、またWntとFGFシグナルには複雑に応答して発現が拡大あるいは阻害されることが示された。そこで、XHR1遺伝子の発現制御機構を明らかにするため、プロモーター解析を行った。その結果、pre-MHB領域に発現させる初期エンハンサー領域(EER)を転写開始点上流-7kbのところに同定した。EERは神経化因子およびWntとFGFに対して応答する活性も保持していた。そこで、EERの最小領域を検討した結果、約200塩基対の領域に狭めることができた。以上、本研究により脳の初期パターン形成で重要な役割を担うMHB彩成の分子機構の一端が明らかとなった。
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