真核生物における遺伝子発現の諸過程は、互いに密接に関連していることが近年明らかになってきた。その一例として、スプライシングはエクソンとエクソンの境界付近にexon junction complex (EJC)というスプライシング依存性複合体を残すことで、下流の遺伝子発現過程に影響を及ぼすことがある。EJCの構成因子であるYl4とMagohはヘテロダイマーとして核内でmRNA上に結合し、細胞質に輸送後もmRNA上にとどまり細胞質EJC (cEJC)を形成する。このことから、細胞質でのRNA局在に関わることが強く示唆されていた。実際、キイロショウジョバエにおけるこの二つのタンパク質の相同因子が、卵母細胞でのoskar mRNAの細胞質内局在に関わることが報告された。 本研究では、哺乳動物においてもEJCがスプライシングとRNA局在との連携を司っていると予想し、RNA局在の例が多く知られている神経細胞を用いて解析を行っている。神経細胞のモデル細胞であるSH-SY5Y細胞を用いて抗Y14抗体で染色したところ、核内だけでなく、神経様突起の中にも点状のシグナルがみられた。Y14は翻訳によってmRNAから解離するため、Y14が結合しているmRNAのキャップ構造に結合しているタンパク質は、翻訳に関係するeIF4Eではなく、核内キャップ構造結合複合体であるCBCであることが予想された。そこで、CBCの構成因子であるCBP80に対する抗体を用いて免疫染色を行ったところ、同様に突起中に点状のシグナルが観察された。またこのシグナルはeIF4Eのシグナルとは重ならなかった。さらにCBP80のシグナルはポリA鎖を持ったmRNAと共局在することがわかった。これらのことから、神経突起中にはCBCとY14を含んだ輸送途中のmRNPがあり、CBCが結合した状態を保っことで新たな翻訳抑制を行っていることが強く示唆された。
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