染色体異数性は配偶子形成における染色体分離のエラーに起因しヒトの発生異常の主要な原因となる。さらに腫瘍の形成と悪性化との強い関係が認められており、医学的な重要性が極めて高い生物学的問題である。一方、植物におけるように高次倍数性が普通に存在する場合には、交雑により異数体が作られることは避けられない。異数性はもとより生物にとって有害な状態であり、生物はこれに対応した何らかの対抗機構をもつ可能性がある。本研究に先立つ遺伝学的解析によって、分裂酵母の異数体は一般に極めて不安定であり、細胞分裂を停止しやすいことを見いだしていた。本研究の目的は、この予備的観察を基礎として、細胞生物学的手法の導入などで、新たな視点から異数性に対する細胞の応答について明らかにすることであった。三倍体の減数分裂の結果作られる胞子が、ほぼ期待通りの頻度でnと2nの間の異数体を作ることをフローサイトメトリー法で確認し、これらの異数体胞子ではDNA合成と発芽の大幅な遅延が起こることを明らかにした。また、ヒストンを蛍光タンパク質GFPでラベルする方法で、少なくとの2種類の異数体において細胞分裂の異常と染色体の分配異常を示す像を観察した。またこれらの異数体から高い頻度で、異数性をなくした一倍体あるいは二倍体が生じることを確認した。さらに、分裂酵母では唯一生存可能な異数体である3番染色体のダイソミーから、増殖速度が速くなった派生体を分離しその染色体をパルスフィールド電気泳動法で解析したところ、3番染色体の左腕、あるいは右腕の末端に3番染色体の全体の約3分の1の欠失が生じていることが判明した。別の研究グループとの共同研究で、それらの切断末端をマッピングしたところ、比較的近接した位置で切断が起こりやすいことが示唆された。
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