(1)細胞の増殖を誘導するシグナルが、Fasを介するアポトーシス誘導シグナルを抑制する分子機構を明らかにすることを目的とした。マウス線維芽細胞にbasic FGF(bFGF)を処理することによってFasシグナルが阻害される際に、ERKの恒常的活性化が必須であることを示してきたが、ERKの下流でAP-1の活性化が必須であることを2種類のAP-1のドミナントネガティブ変異体(A-FosとTAM67)の発現がFasシグナル阻害をキャンセルすることを示すことによって明らかとした。さらに、ERK→AP-1の下流でc-FLIPの発現誘導が認められ、c-FLIPの発現をRNAi法によって抑制することによって、bFGF→ERK→AP-1の作用によるFasシグナルの抑制が完全にキャンセルされることを示した。 (2)Fasシグナルを抑制するウイルス由来FLIP(v-FLIP)分子E8を一過性に発現させた細胞に可溶性Wnt3aを作用させ、Wntの下流で機能する転写因子TCFの作用するプロモーターを用いたルシフェレースアッセイ等を行った結果、v-FLIP E8がWntシグナルを著しく増強することを示した。つぎに、βカテニンと結合することによってWntシグナルを抑制するドミナントネガティブTCFやICAT分子を発現させることにより、v-FLIPによるWntシグナル増強効果もキャンセルされることを示し、Wnt canonical pathwayを増強することを示した。さらに、恒常安定型βカテニンの発現によるTCFの活性化に対しても、v-FLIPが増強作用を示すことを明らかにすることによって、v-FLIPの作用点がβカテニンの蓄積の下流であることを示した。さらに、E8発現細胞にWnt3aを作用させ、Wntシグナルを強力に導入すると、トランスフォーム細胞株では強い細胞増殖増強作用が、非トランスフォーム細胞株では著しい細胞増殖抑制作用が認められた。Wntシグナルが細胞増殖に多様な作用を有することを示し、それらのシグナル伝達機構を解析するin vitroの系を作製することに成功した。
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