研究課題
基盤研究(B)
細胞の外部環境への接着と運動は、細胞の増殖・分化・生存性等の制御における必須因子の一つであり、多細胞生物体の構築と維持を理解する上で非常に重要な生物学的過程である。細胞の接着と運動は、インテグリン等の細胞形質膜レセプターの細胞外基質等への結合と、それに伴う細胞内での生化学的シグナル伝達や細胞骨格と膜の再構成等を介して制御される。近年、これらの個々の素過程に関する知見は膨大なものになってきた。一方、細胞が運動する際には、これらの素過程が互いに連携し統御され、細胞全体が統一された一つのシステムとして作動する。しかし、個々のシグナル伝達過程や細胞骨格・細胞膜の再構成を、このような統一されたシステムとして統御し運営する為の分子的機序は、未だ十分には解明されていない。申請者らは、Arf6の活性制御が細胞運動を基本的に制御している重要な細胞内過程の一つであることを示す証拠を提示してきた。これは、1984年以来M.Bretscherによって一貫して提唱されている、膜の再構成過程が細胞運動制御に根幹的に関わるものである、との仮説の延長上にあるものである。本研究は、細胞運動におけるArf6の主導的役割をより詳しく検証することを目的とする。既にArf6に作用する幾つかのGAP蛋白質を同定し解析し、これらのGAP蛋白質と相互作用する蛋白質因子も概ね同定が終了した。本年度においては、細胞運動や浸潤を促すArf6活性化に関わるGEF(Guanine nucleotide exchange factor)の同定、さらに、Arf6は非標準的なユビキチン化を受けることとそのE3因子の同定解析を行なった。同定されたGEFやE3因子は、乳癌細胞の浸潤性獲得過程にも重要な役割をしていることも明らかにした。また、このGEFの活性化に至るシグナル伝達過程の解析も初期段階が終了した。このことによって、乳癌の多くの浸潤形質を説明することができることも明らかとなった。
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