本研究では、様々な細胞内シグナル伝達系や細胞機能に重要な役割を果たすことが示されている脂質シグナル分子産生酵素、ホスファチジルイノシトール 4-リン酸 5-キナーゼ(PIP5K)とホスホリパーゼD(PLD)について、ジーンターゲッティング法により個体レベルでの生理機能、特に高次脳機能構築における重要性を明らかにし、個体レベルでの生理機能に直接連関するこれらの分子の機能とシグナル伝達機構を細胞レベルとin vitro実験系で解明することを目的して、研究を行った。 現在までに、ほ乳類PIP5Kについては、それぞれα、β、γの三種類のアイソザイムが、PLDについてはPLD1とPLD2の二種類のアイソザイムが同定されている。これらのPIP5KとPLDアイソザイムのうち、今年度はPIP5Kα遺伝子ノックアウトマウスの作製とその解析が完了した。その結果、PIP5Kα欠損マウスは10ヶ月以上健常であり、脳における異常は認められなかった。しかしながら、PIP5Kα欠損マウスの骨髄由来肥満細胞においては抗原刺激依存的なヒスタミン放出反応が促進しており、PIP5Kα欠損マウスの全身性アナフィラキシーと受身皮膚アナフィラキシーが亢進していることが明らかとなった。 以上の結果から、PIP5Kαの生理的機能は不適切な肥満細胞のヒスタミン放出反応とそれに伴うアナフィラキシーを抑制することが示唆された。 現在は、PIP5KとPLDの個々のアイソザイムに特有の生理機能を個体レベルで明らかにするため、それらの遺伝子ノックアウトマウスを作製して解析を進めている。
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