変異蛋白質の作成とリン酸化反応などにより、昨年度までにPax6中に三箇所のリン酸化部位を同定していたので、各々のリン酸化が、いつどのような細胞で起きているのかを確認するため、配列を基にリン酸化残基を含む領域に相当するペプチドを作成し、これを抗原としてモノクローナル抗体の作成を試みた。これにより、中央部のSer残基をリン酸化状態特異的に認識する抗体を得ることができた。この抗体により、細胞一個のレベルで特定部位のリン酸化状態を同定することに成功した。また、このSer残基が増殖刺激に応答してリン酸化を受けることを明らかにした。この時、Mek阻害剤の存在下においてはリン酸化の抑制が観察されることから、リン酸化にはERK径路が主要な役割を持つものと考えられる。さらにGST蛋白質と各変異体との融合蛋白質を基質として用いたインビトロリン酸化反応により、このリン酸化がERK1/2による直接的なリン酸化によって起きることが示された。一方、Pax6のペアード・ドメインの認識DNA配列のひとつであるLE9配列を利用して、転写活性化能におけるSerリン酸化の効果を様々な培養細胞を用いて解析したところ、この部位のリン酸化が転写活性化能へ低レベルの影響を示すことが判明した。これらの結果は、培養細胞を用いた実験から得られたものであり、in vivoにおけるPax6のリン酸化の意義を明らかにするために、今後は胚に直接に各変異体を導入することで、発生過程に対する影響を解析する必要があるものと考えられる。
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