我々は、ゼブラフィッシュの造血・血管発生の場である血島(blood island)に特異的な発現を示す遺伝子の網羅的検索を行った。この過程で、ヘム合成酵素であるCPO(coproporphyrinogen oxidase)を同定し、造血発生における役割を調べた。CPOの機能阻害実験により、ヘモグロビンの産生量が強く抑制されること、また、赤血球の分化が形態的に未成熟段階にとどまることが明らかとなり、CPOが赤血球の発生に重要な役割を担うと考えられた。さらに、CPOの発現制御機構の解析を行った。ゼブラフィッシュにおいて、GATA1やbiklfといった転写制御因子が赤血球の分化過程に必須であることが既に分かっている。興味深いことに、CPO遺伝子のプロモーター領域には、両因子に対する認識配列が存在する。機能的GATA1を欠損するvlt変異体あるいはbiklfの機能阻害を誘導した胚において、CPOの発現が強く抑制されていることが分かった。逆に、GATA1とbiklf RNAをともにインジェクションした時にのみ、CPO遺伝子の異所的発現誘導が観察され、両因子がCPOの血島への発現に協調的に機能していることが示唆された。 我々は、CPOに加えてb819遺伝子が血島に特異的発現を示す新規遺伝子であることを明らかにした。このb819遺伝子は、既知の遺伝子と全く相同性が認められないが、アミノ酸配列から新規の膜蛋白質と考えられた。b819遺伝子の機能阻害実験を行った結果、赤血球の減少、および、血管のネットワーク形成異常を示した。b819遺伝子は、ヘマンジオブラストから造血・血管細胞が生成される過程において働いていると考えられ、今後、この新規遺伝子の機能解析により、造血・血管発生の分子メカニズムの一端が明らかとなると考えている。
|