本研究は脊椎動物の前脳における領域特異性形成と組織構築機構を明らかにすることを目的とし、1)視床神経核形成、2)大脳原基の初期部域化、3)前部神経板を構成する神経上皮細胞の細胞系譜、4)神経上皮細胞の微細構造の機能、の4つの課題について研究を行った。その結果、1)神経核前駆細胞が特定の経路をたどって移動することが、二次元的にパターン化された視床原基から立体的に複雑な神経核構造を造るための要因であることを明らかにした。さらに、その過程では神経上皮の区画間に存在する境界細胞が分泌性のガイダンス分子を介して重要な働きをすることを見いだした。また、このような神経細胞の移動様式は動物種間で異なっており、視床組織形態の多様化に関与している可能性が示唆された。2)大脳原基の区画化のしくみについて検討を行った。これまでの研究から、いわゆる後方化シグナルとしてのWntの作用によって終脳内に皮質原基、基底核原基の区画が形成されるという作業仮説に対し、Wntシグナルの人為的操作、内在性のWntシグナル伝達の可視化等の実験を行った。さらに、実際の後方化因子を特定するためにshRNAを用いた実験を行ったが、研究期間内では予備段階で期待通りの効果を示すものが得られず、さらなる解析が必要である。3)Six3遺伝子は、前脳原基に広く発現し、時間とともに局在化する。時期特異的にSix3の発現によって規定される神経上皮細胞の細胞系譜を解析することによって、前脳の各組織の起源を明らかにする目的で、Six3遺伝子座に薬剤誘導型Creリコンビネースを挿入したトランスジェニックマウスの作成を進めた。事情により、当初の研究計画から大幅に遅れることとなったが、現在着実に進行している。4)神経上皮細胞の微細構造が果たす神経発生上の機能について解析を行い、幼若神経細胞と神経上皮細胞との間に形成された接着帯が、神経上皮細胞の未分化性を維持するための側方抑制の相互作用に重要な役割をしている可能性が示唆された。
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