研究概要 |
ヒドラの神経系は神経ペプチド遺伝子の発現パターン解析からいくつもの小集団に分かれ、それらの小集団のいくつかは体軸に沿って顕著な区画を形成することを明らかにしてきた。本年度は以下の成果を得た。 (1)新規神経ペプチド及びその遺伝子の同定。ヒドラペプチドプロジェクトで新たに配列決定したものの中に、Hym-65ペプチド遺伝子中にコードされているものを見出し、C-末端構造からHym-65をFRamide A,新規ペプチドをFRamide Bと命名。前者はヒドラの外胚葉上皮筋を、後者は内胚葉上皮筋をそれぞれ収縮させる活性を示した。更に、RFamideをC-末端にもつ新たな神経ペプチド遺伝子を同定した。 (2)神経ペプチドHym-176を特異的に発現する神経集団は足部で区画を形成することは既に報告したが、その形成には2つの機構を併用していることが明らかになってきた。成長期の若い固体ではこの区画内のHym-176+神経はその大部分が前駆体からの分化で補われていると報告してきたが、成熟固体では新たな分化だけではなく、区画直上の他の区画の神経からの形質転換(phenotypic conversion)でも補われることが分かった。昨年報告したように、Hym-176+神経の区画上半部から下半部への移行は形質転換を伴うことから、この機構も区画生成、維持に重要な働きを持つことが明らかとなった。 (3)区画の生成には位置情報が関わると予測されたので、位置情報を変化させることが知られている薬剤をもちいて区画の変化を調べた。用いた薬剤はalsterpaullone (ALP)とLiCl,ともにwntシグナルの一員であるGSK3βの阻害剤であることが知られている。ALP処理では頭部領域が体幹ほぼ全域に拡がり、LiCl処理では体幹上半部は頭部域に下半部は足部域に変化する.前者処理の場合、Hym-176+神経の区画は足部下部に圧縮され、後者処理の場合は体幹下半部全域でHym-176+神経の分化が見られた。このことから、ヒドラ神経の区画化には少なくともwntシグナル系が関与していると考えられる。
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