マウスES細胞の二次元培養においては、ゼラチンコートした表面に接着した状態でのサイトカインLIFの添加が未分化状態維持に十分であることが知られている。この状態において、細胞接着分子からのシグナルが未分化状態維持に関与しているかどうかを検討するために、ゼラチンへの接着に関与するインテグリンの細胞内ドメインに結合し、そのシグナル伝達に関与していることが知られているIntegrin-linked kinase(ILK)に着目した。ILKのキナーゼドメインに変異を導入あるいはこれを欠失させた機能阻害型変異体を作製し、均一な発現が保証される染色体外発現システムを用いてこれらの分子をマウスES細胞で強制発現させ、その効果を検討した。この結果、いずれの変異体においても、これらを発現した細胞は未分化状態を維持できなくなり、LIFを除去したときと同様の原始内胚葉様細胞へと分化した。従って、LIFによるES細胞の未分化性維持には、細胞接着に由来するシグナルの入力が必須であると考えられた。一方で、浮遊培養系における表層の細胞の分化への細胞間接着シグナルの関与を検討するために、マウスES細胞の主要な細胞間接着分子であるE-Cadherinの細胞外ドメインとIgG-Fc領域を融合した遺伝子を作製し、これをCOS細胞に導入して可溶型分子の産生を行った。この培養上清をマウスES細胞の浮遊培養系に添加すると、表層における原始内胚葉の分化が、部分的に阻害された。現在、より高濃度の可溶型分子を得るために、昆虫細胞を用いた大量生産を進めている。
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