研究概要 |
針葉樹遺伝子進化の一般的性質を明らかにするとともに、適応進化が起こったと考えられる候補遺伝子や、多重化を伴うと考えられる耐病性遺伝子を詳しく解析することにより、世代の長い生物でどのように適応進化が起こっているかを解明することを目的として、次の研究を行った。1)スギ(Cryptomeria japonica)及びヌマスギ(Taxidium distichum)の天然林からサンプルした個体の塩基配列多型を核四遺伝子座で調査した。その結果、天然林とこれまでに調べられた人工林の間の遺伝的分化の程度は低く、またヌマスギはスギに較べて高い遺伝的多様性を持ち、両種は過去に異なる集団構造を持ったこと等がわかった。2)耐病性遺伝子であるR遺伝子のホモログの配列情報をスギcDNAデータベースより得て、スギ及びヌマスギの集団において塩基配列多型を解析した。その結果この遺伝子は両種において重複しており、またスギにおいて非同義塩基多様度が同義塩基多様度の2倍を超えていることがわかった。病原体との競合で強い自然淘汰の影響を受け、適応的な進化を行っていると考えられる。二遺伝子座間の遺伝子変換も多く起こっており、かなり複雑な進化を行っていると推測される。3)被子植物と異なり針葉樹は非光依存性のクロロフィル合成を行う遺伝子が葉緑体ゲノム中に3個持ち、これらは良く保存されている。ところがヒノキ科Thuja属では三個の遺伝子(ChlL,N,B)のうち二個で非同義置換が多く起こっていることがわかった。実際に暗所でThuja属種子を発芽させると他種と違い黄化が起こり、クロロフィル合成が行われない。これらの遺伝子は全てまだ発現されているが、おそらくThuja属樹木ではその生態的条件によってこれらの遺伝子の偽遺伝子化が進んでいるものと考えられる。
|