研究課題
基盤研究(B)
イネの「緑の革命」で広範囲で利用された半矮性遺伝子(sd1)座の変異遺伝子の地理的分布から、「変異遺伝子は野生イネに保持され、在来品種形成過程で利用された」ものと「在来品種形成の過程で突然変異を人為的に選抜して利用された」ものの両者が存在することが分った。環境適応に対するsd1座の役割を検討するため、インド産野生系統(W107)とA58(北海道栽培系統)のRILsを用いて、適応的形質変異がsd1座近傍に検出されるかどうかを調査した。その結果、野生系統はA58よりも長稈に作用するQTLを保持しているにも関わらず、ヒエなどの水田主要雑草に対する強い競争力を支配するQTLがA58に発見された。さらに、長稈に作用するQTLを詳細にマップしたところ、sd1座を含む複数のQTLが密接に連鎖していることが判明した。遺伝子多様度の比較から、この領域は日印品種間で明瞭に分化しており、両者間には浸透交雑の形跡が殆ど見られないと考えられた。したがって、この領域は地理的分布に関わる適応的分化が隣接する微少なQTLの組合わせによって成立しており、環境適応を考える上で興味ある領域であると結論出来た。一方、第6染色体のモチ遺伝子の遺伝子多様度を品種分化との関連で比較したところ、日印品種間で浸透交雑の形跡が認められ、頻度は低いものの日本型特異な領域が印度型特異な領域に挿入された在来品種を見い出すことに始めて成功した。このことは、自然界に見られる多様性が集団内の遺伝的組換えにより創出され、人為選抜されたことを意味している。以上の結果から、有用遺伝子の多様化には、遺伝子によって異なる歴史的変遷を経てきたことが伺われる。この事実は、育種形質の多様化を考慮する上で、貴重な示唆を与えると期待される。
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