研究成果 本研究では、コムギまたはエンバクにトウモロコシまたはトウジンビエ(パールミレット)の花粉を交配し、花粉管伸長、受精・胚発生過程の染色体行動を分子生物学的手法によって調査した。また、転座染色体を誘発し、異種植物遺伝子をコムギに導入することを試みた。 すでに、コムギ×トウモロコシで、受精胚の第一分裂でトウモロコシ染色体の動原体に紡錘糸が付着しないことを明らかにしていたので、動原体タンパク質の挙動を免疫染色法で解析し、その原因究明を試みた。まず、リン酸化ヒストンH3抗体を根端の分裂細胞に適用し、3次元に観察する実験手法を開発した。しかし、本手法は雑種胚ではうまく働かず、研究期間内に動原体不全と動原体タンパク質の関係を解明することができなかった。 エンバク×トウモロコシの組合せでは、トウモロコシの系統間差を調査した。この組合せでは、トウモロコシ染色体が完全に脱落せず、一部の染色体が残った個体を得ることができた。 コムギ×トウジンビエの組合せでは、雑種胚におけるトウジンビエ染色体の脱落が緩慢であり、受精後7日目でもトウジンビエ染色体の一部分が残存し、残存率にはコムギの品種差が見られた。脱落過程の染色体をFISH/GISH法により調査した。その結果、トウジンビエ染色体に構造異常が見られ、またコムギ染色体にも染色体橋などの異常が観察された。さらに、トウジンビエ染色体が間期核から排除される過程が見られた。この組合せでは、コムギ×トウモロコシとは別機構の染色体脱落機構があることが明らかになった。 コムギ×トウモロコシまたはトウジンビエの組合せでの初期胚にX線を照射して、脱落する前にコムギと異種植物の染色体転座を誘発させ、安定して伝達する染色体の作成を試みた。しかし、目的とする転座染色体をもつ個体は得られなかった。 以上の結果より、イネ科亜科間雑種における、染色体挙動が明らかとなった。
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