研究概要 |
本研究では、世界中で東アジアにのみ分布するオオムギ半矮性系統‘渦'について、渦性変異の起源に関する分子レベルの知見を得ると共に、渦系統が持つ形態的・生理的多様性に関わる遺伝子座の検出を目的とする。 本年度は遺伝的背景が異なる複数の同質遺伝子系統を用いて、子葉鞘の突起形成に対する外生のオーキシン及びサイトカイニンの効果を調査した。また、異所的細胞分裂に関わるホメオティック遺伝子の子葉鞘における発現を解析した。 (1)並・渦性に関する同質遺伝子系統の受粉後約20日の種子胚(胚長約3mm)を2,4-D(0.001〜1μM)もしくはZeatin(0.0001〜1μM)を添加したMS培地上で15℃もしくは25℃、暗黒条件下で発芽させ、子葉鞘の突起形成の有無を調査した。無処理区の渦系統では、15℃条件下に比べて25℃条件下で高い突起形成率を示した。25℃条件下で発芽させた場合には、ホルモン処理の影響は認められなかったが、15℃条件下では2,4-D及びZeatin処理により突起形成率が増加し、0.0001〜0.001μM処理で25℃条件下と同程度の高い形成率を示した。渦系統における子葉鞘の突起形成は低濃度のオーキシン及びサイトカイニンにより影響を受け、高温条件下で観察される効率的突起形成はホルモン処理によって再現されることが明らかとなった。 (2)同質遺伝子系統の種子を15℃もしくは25℃で発芽させ、子葉鞘よりRNAを抽出し、異所的細胞分裂に関わるKN1及びRS2遺伝子の発現量を定量PCRにより解析した。リョウフウ、赤神力を背景とする同質遺伝子系統では、温度処理に関係なく渦系統でKN1遺伝子の発現が高かった。ホシマサリを背景とする同質遺伝子系統の場合、25℃条件下では並系統に比べて渦系統でKN1遺伝子の発現は高かったが、15℃条件下では並系統が渦系統に比べて高い発現量を示した。この系統の関しては、RS2遺伝子の発現に関しても差が認められ、25℃条件下ではKN1遺伝子と同様に並系統に比べて渦系統で発現が高かった。異所的細胞分裂に関わるKN1及びRS2遺伝子の発現は並・渦系統間で異なっており、遺伝的背景により発現パターンは変化することが明らかとなった。
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