昨年度までに、自家和合性品種‘おさ二十世紀'(S2S4^<sm>)に由来するS4^<sm>ハプロタイプはS4-RNaseの上流48kbから下流188kbまでのおよそ236kbが欠失していることを明らかにした。S4^<sm>ハプロタイプにおいて花粉側S遺伝子は正常に機能していることから、花粉側84遺伝子は欠失領域外に存在すると考えられた。欠失領域(236kb)の塩基配列からGENSCANにより36個の遺伝子を予測し、BLASTXを用いたホモロジー検索の結果、S4-RNase、16個のトランスポゾン関連遺伝子と1個のF-box遺伝子(S4F-box0)が見出された。S4F-box0はナス科、ゴマノハグサ科、バラ科サクラ亜科の花粉側S遺伝子と相同性を有し、花粉で特異的に発現していたが、欠失領域に存在することから花粉側S遺伝子ではないと結論づけた。PCR-RFLPシステムではS4^<sm>ハプロタイプを直接PCR断片として検出することはできない。欠失領域外の塩基配列から設計したプライマーセット‘SM-F'と‘SM-R'を用いたPCRにより、S4^<sm>ハプロタイプを666bpの断片として検出できるようになり、効率的に自家和合性個体を選抜できるようになった。 さらにS4ホモ個体のBACライブラリーを用いて染色体歩行を行い、S4-RNaseの上流395kbと下流615kbをカバーするBACコンティグを構築した。BACインサート末端配列解析の結果、S4-RNaseの200kb以上上流に4つの、396bp下流に1つのF-box遺伝子を見出した。 電顕観察のために超薄切片の作成方法を検討した。多くのナシ品種の雌しべは湾曲しているためミクロトームを用いた花粉管縦断切片の作成は困難であったが、‘新興'由来のS4とS9ホモ系統の雌しべは直立で、6mmと短く、縦断切片の作成を容易にし、花柱下部の花粉管誘導組織における自家・他家花粉管の挙動を電顕観察することが可能になった。
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