研究概要 |
バラ科果樹はS遺伝子座のハプロタイプ(雌しべ側S遺伝子と花粉側S遺伝子のセット)に制御される配偶体型自家不和合性を示す。雌しべ側S遺伝子としてS-RNaseが単離・同定され、S-RNaseは自家花粉のrRNAを分解し、花粉管伸長を抑制すると考えられている。自他認識反応はS-RNaseと花粉側S遺伝子産物の相互作用により起こる。サクラ亜科(オウトウ,ウメ,アーモンド)ではF-box遺伝子(SFB/SLF)が花粉側S遺伝子として、S-RNaseの下流1.6〜30kbに見出されているが、ナシ亜科(ナシ,リンゴ)では未だ同定されていない。 本研究では、ニホンナシ花粉側S遺伝子をクローニングするため、二十世紀'(S2S4)由来のS4ホモ系統からBACライブラリーを作製し、S4-RNaseを起点とした染色体歩行を行い、S4-RNaseの上流395kbと下流615kbをカバーするBACコンティグを構築した。このBACコンティグ上の花粉側S遺伝子の位置を絞り込むために、自家和合性変異体の‘おさ二十世紀'(S2S4^<sm>)のS4^<sm>ハプロタイプを解析し、S4^<sm>ハプロタイプがS4-RNase周辺236kbを欠失していること、花粉側S遺伝子がS4-RNaseの上流50kb、下流195kb以上離れた位置に存在することを明らかにした。欠失領域外に花粉特異的に発現する5つのF-box遺伝子を見出され、花粉側S遺伝子の有力な候補であると考えられた。また、S4^<sm>ハプロタイプを用いた自家和合性個体の選抜のため、S4^<sm>ハプロタイプ特異的マーカーを開発した。一方、花粉管停止機構の解明には細胞組織を包括した解析が求められる。花粉管が侵入した花柱組織の断面組織を透過型電子顕微鏡で観察するための試料作製法として、連続厚切り切片の作製を考案し、それによって花粉管の微細構造を明らかにした。
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