研究課題
植物の最大成分は水で、水の挙動が凍結温度での生存の鍵を握る。耐寒性の高い植物組織では凍結温度下でも氷は特定部位だけにでき、細胞の中は決して凍らない一方、安定して過冷却する組織もある。このような植物の凍り方(凍結挙動)は種や組織に固有で、重要な耐寒性機構である。当該年度は主に木本枝、ササ、シュロ葉等の微細凍結挙動とその機構を解析した。1.NMR顕微鏡を用いたシュロ葉の凍結挙動の解析と凍結バリアシュロ葉は、安定した深過冷却により-15℃程度まで凍害を受けない変わった凍結様式で耐寒する植物であるが、その詳細な凍結挙動や関与因子はよくわかっていない。シュロ葉の微細凍結挙動と凍結傷害の機構をNMR顕微鏡および示差熱分析により解析した。シュロ葉は-11℃付近で維管束や表皮が凍結し、-15℃付近から向軸側の葉肉細胞群が凍結しだし、その後-17℃付近から背軸側の細胞群が凍りだすことが判った。このため向軸側(柵状組織)に凍害が先に出現した。厚壁細胞群と内皮は-22℃でも凍結しなかった。厚壁細胞群と内皮は、他組織から葉肉細胞への凍結伝播のバリアとして働く可能性がある。2、ササ葉身の深過冷却能力と葉脈バリア熱帯性タケの葉身は-5℃の凍結にも耐えないが、温帯性ササタケ類の葉身は-15〜-25℃まで過冷却により耐寒した。前者の葉は横小脈の上下の厚壁細胞が未発達で、凍結伝播を阻止できなかったが、後者の葉は発達した厚壁細胞を伴う葉脈があみだを形成しており、あみだで囲まれた小区画単位で凍結が生じ、葉脈の違いが深過冷却能力に関わっていることを示唆した。3.赤外線サーモビュアによる木本枝の凍結過程の解析デジタルサーモビュアを利用して木本枝の凍結開始過程を撮影した後、画像を差引きすることにより、示差画像を得た。本解析により、枝の凍結は、複数の箇所から開始し、実験するたびに、同一枝でも開始箇所や伝播が異なることが判った。従って枝の凍結開始に関わる氷核活性は、枝全体の複数個所にある可能性が高い。示差画像は微細な凍結過程を非常に感度良く観察することができ、応用性が高い。
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