研究概要 |
本研究課題では、このCMV(Y)感染シロイヌナズナC24における抵抗性の分子機構を解明するため、抵抗性遺伝子産物に認められるNucleotide-binding(NB)ドメインとLeucine-rich repeat(LRR)ドメインをもつタンパク質(R-like protein)をコードしている207遺伝子に焦点をあて、それらの遺伝子ファミリーがCMV(Y)抵抗性発現に果たす役割について解析を行った。全ゲノムの塩基配列が明らかになっているシロイヌナズナにおいては、NB-LRRファミリーに属する遺伝子が約200コピー存在している。それらの中には、糸状菌、細菌、ウイルスに対する抵抗性遺伝子としてすでに同定されているものが含まれているが、自然界においてシロイヌナズナに感染する病原体の数は、各病原体における系統やレースを考えると200を超えることは明らかである。したがって、シロイヌナズナのゲノム上に存在するNB-LRRファミリーがコードしているタンパク質の機能については、まだ未解明な点が多く残されている。CMV抵抗性において、このNB-LRRファミリーの機能を明らかにするため、シロイヌナズナの約200コピーのNB-LRR遺伝子の3'末端近傍をスポットしたカスタムアレイを作成し、CMV感染に対する遺伝子発現の変動の解析を行った。その結果、CMV(Y)に対して過敏感反応による抵抗性を示すことが明らかになっているエコタイプC24において、抵抗性発現にともなって転写量が増加する6個の遺伝子を見出した。この中の5遺伝子(Atlg72890,Atlg72900,Atlg72910,Atlg72930,Atlg72940)はTIR-NBコードしておりLRRを有していない。また、ゲノム上での位置を調べたところ、第1染色体の長腕末端付近にクラスターをなして分布していることが明かになったことから、これをCMV(Y)-inducible R-like gene family (CIR family)と命名した。また、SAを蓄積しないシロイヌナズナ変異体pad4においても、CMV(Y)感染によってこれらCIR familyの転写量が増加したことから、CIR familyはCMV(Y)抵抗性シグナル伝達系においてSAやPAD4の上流で機能している可能性が考えられた。動物の自然免疫においては、TIR-NBドメインを有するタンパク質が防御遺伝子の発現に関わるシグナル伝達系において機能していることが知られている(総称してアダプタータンパク質と呼ばれている)ことから、植物におけるTIR-NBタンパク質の具体的な役割についても興味が持たれる。
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