本年度の研究では、病害抵抗性に関わるタンパク質をコードすると考えられているNB-LRR遺伝子ファミリーのメンバーの中で、キュウリモザイクウイルス(CMV)抵抗性誘導に伴い発現が上昇するCIR (CMV-inducible R-like gene)遺伝子とCMV抵抗性遺伝子であるRCY1遺伝子を過剰発現する形質転換シロイヌナズナの作出を行なった。 その結果、CIR過剰発現体8ラインとRCY1過剰発現体3ラインを得ることができた。RCY1過剰発現体3ラインは、いずれも健全な形態をしており、CMVに対して抵抗性を示した。しかし、抵抗性発現に伴って誘導される過敏感細胞死の程度や初期感染部位におけるウイルスの局在化の程度は、過剰発現しているRCY1のレベルにより異なっていた。すなわち、RCY1が高発現であるほどウイルスの広がりはより制限され、それに伴って誘導される細胞死もさらに小さくなっていた。最もRCY1発現レベルが高い形質転換体について、cDNAアレイを用いて遺伝子の発現を網羅的に解析したところ、PRタンパク質などをコードする防御関連遺伝子、防御応答に関わるシグナル伝達系の構成因子をコードする遺伝子、活性酸素消去に関わるタンパク質をコードする遺伝子などの発現が上昇していた。この結果は、RCY1の発現量を上昇させることにより、植物のCMV抵抗性を増強できる可能性を示している。 CIR過剰発現体については、CMV接種に対してRCY1形質転換体ほどの明瞭なCMV抵抗性を示すことはなかった。しかし、CIR遺伝子の発現はCMV抵抗性に伴って上昇することから、CMV抵抗性におけるCIRタンパク質の機能を解析するため、CIR過剰発現体とRCY1をもつシロイヌナズナを交配し、RCY1を持ちながらCIRを過剰発現している植物体を作出した。その個体のCMV抵抗性は現在解析中であるが、抵抗性に変化が認められれば、RCY1によるCMV抵抗性発現にCIRが関与していることを示すことができるであろう。
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