植物ウイルスの病徴発現機構には不明な点が多い。Potato virus X(PVX)およびPlantago asiatica mosaic virus(PlAMV)の複数の分離株を用い、病徴発現に関わるウイルス側および植物側の因子を解析した。タバコに同心円状の輪状斑を生ずるPVXのOS系統と、モザイクを生ずるBH系統を用いた解析により、ウイルスゲノムの58番塩基が病徴決定因子であることをすでに明らかにしたが、さらにOS系統感染植物の輪状斑部分で活性酸素種が検出され、細胞の過敏感反応死(HR)により誘導されるPR-1a遺伝子の発現が見られた。さらに、OS系統感染植物では輪状斑の外側にもウイルスが検出された。よって輪状斑の形成機構として「植物はOSの感染を感知し感染部位の周囲を輪状に細胞死させて感染の拡大を抑えようとするが、OS系統はそれを越えて拡がり、植物はその外側に新たな輪状斑を次々に形成する」というモデルを提案した。タバコ野生種に対して植物全体の枯死を引き起こすPlAMVのLi1株とモザイクを生じるLi6株を用いた解析により、ウイルスのコードする複製酵素の1154番目のアミノ酸が病徴の決定因子であることをすでに明らかにしたが、Li1株による全身枯死では活性酸素種が検出され、イオンリークが検出されたことから、全身枯死はHR様の細胞死であると示唆された。さらに、ウイルスの全身移行は、Li1株のほうが遅れていた。よって、全身枯死病徴の機構として「植物がLi1株の感染を感知し、それを封じ込めようとHR様の反応を起こすが、移行が遅れるのみで封じ込めはできず、全身の細胞がHR様反応をおこすので植物全体が枯死する」というモデルを提案した。このように植物ウイルスの病徴のいくつかは、「HRによるウイルス封じ込めが成功しなかった状態」として説明できると考えられる。
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