研究概要 |
イネ科植物の根に感染し増殖する原生動物Polymyxa graminisによって伝搬されるFurovirus属植物RNAウイルスの病原性と伝搬性を明らかにするために、Furovirus属のタイプ種であるムギ類萎縮ウイルス(Soil-borne wheat mosaic virus, SBWMV)の日本分離株と米国分離株を用いて下記の実験を行い、成果を得た。 (1)ムギ類植物での全身感染の維持における外被タンパク質(CP)およびそのリードスルー産物(CP-RT)の役割を調べた。RNA2内のCP遺伝子の終止コドン(TGA)をトリプトファン・コドン(TGG)に置換し、野生型RNA1と共にコムギに接種したところ、野生型ウイルスを接種した場合よりも早く、接種後10日目頃から非接種上位葉に顕著なモザイク症状を示し始め、CP抗体を用いたウエスタンブロット法により上葉よりCP-RTのみが検出された。さらに接種後、2週間目、4週間目、6週間目及び8週間目に最上位葉からCP抗体を用いてCP関連タンパク質の検出を試みたところ、感染が進むにつれ殆どの個体でCP-RTが消失し、CPないしはCPより分子量の僅かに大きいタンパク質が検出された。上位葉よりウイルス粒子を精製し抽出RNAを用いてRT-PCR増幅し、CP遺伝子およびその下流域の塩基配列を調べた結果、RT領域の欠失による野生型CPへの復帰変異や野生型CPに2ないし3アミノ酸が付加した変異型CP遺伝子への疑似復帰変異が検出された。一方、CP-RT領域を持たずp19高システイン含タンパク質遺伝子のみを残したRNA2を野生型RNA1と共に接種した揚合には、感染初期でのウイルスRNAの非接種葉への長距離移行は確認されたが、数週間維持した個体からはウイルスは検出されなくなった。このことから、p37細胞間移行タンパク質とp19は全身感染の初期段階におけるウイルスRNAの長距離移行には機能しているが、全身感染の維持にはCPないしはCP-RTが必須であることが明らかとなった。これらの結果より、植物ウイルスの感染植物においては、長距離移行と全身感染性とを識別する必要があることが示された。 (2)グロースキャビネット内でのPolymyxa graminis遊走子によるSBWMV接種系を確立した。また、オオムギの水耕栽培系を確立した。 (3)野生型米国分離株より、25℃で全身感染を維持するSBWMV変異株を分離し、p37移行タンパク質内の1アミノ酸変異が高温適応の原因であることを明らかにした。
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