研究概要 |
キボシカミキリPsacothea hilarisの幼虫を4齢への脱皮後4日間摂食させてから絶食させると,5齢への幼虫脱皮が完全に阻害されるうえ、ほとんどの個体が通常(4齢からの蛹化の場合、25日齢)よりかなり早く、18日齢前後に蛹化する(早熟蛹化).この現象の背後にあるメカニズムを探るため、ディファレンシャル ディスプレー法により、飢餓条件下で特異的に発現している遺伝子を探索した。その結果、飢餓状態の進行に伴い発現が増大する遺伝子断片を7つ発見することができた。そのうちの一つについてシークエンスをし、BLASTを用いて公開データベースを検索したところ、カイコのbeta-N-acetylglucosaminidaseと高い相同性があることがわかった。この遺伝子にPhBNA-1という名を与え、3'-RACE及び5'-RACE法によりcDNAの全長のシークエンス解読を試みた。現在のところ全長の決定に至っていないが、658bpについて決定することができた。ついで、定量PCRにより様々な組織における発現の状況を調査した。皮膚及び脳-側心体-アラタ体連合では飢餓状態の継続に伴ってPhBNA-1の発現が増大した。これに対し、脂肪体と中腸ではPhBNA-1mRNA量に変化がみられなかった。興味深いことに、マルピーギ管では飢餓状態の進行に伴ってPhBNA-1mRNA量は減少していた。beta-N-acetylglucosaminidaseはキチナーゼとともにキチンの分解に重要な働きをしていることが知られている。しかし、脳-側心体-アラタ体連合のような神経系には基質であるキチンは存在しないため、この組織におけるbeta-N-acetylglucosaminidaseの働きは不明である。
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