研究概要 |
枯草菌の細胞壁は、ペプチドグリカン(PG)がテイコイン酸(WTA)などの陰イオンポリマーにより修飾された状態で機能している。この細胞壁の合成はセプタム部ではFtsZに依存しており、シリンジ部ではMblに依存して螺旋状に合成されていることが報告されている。これまでの研究成果として、枯草菌の細胞壁溶解酵素LytF(CwlE)が細胞の分裂面と両極に局在し、細胞分離に関与することを明らかにした。このようなLytFの局在を制御しているN末端のLysMドメインは、in vitroにおいてPGを特異的に認識し、その結合はWTAにより阻害されることを見出した。さらにWTA枯渇細胞では、シリンジ部にも螺旋状にLytFが局在することがわかった。このような螺旋状の局在を示す蛋白質として枯草菌ではアクチン様細胞骨格蛋白質が挙げられる。そこで本年度はWTAを枯渇させた場合に観察される螺旋状のLytF局在パターンと、3つのアクチン様細胞骨格蛋白質(Mbl,MreB,MreBH)との関連性を明らかにするために、それぞれの変異株を作成した。また、これまで免疫蛍光顕微鏡観察を行っていたLytF-3xFLAG発現株では、シリンジ部における螺旋状の蛍光強度が弱く頻度も低いという問題があった。そこでこれを改善するためにLytF-6xFLAG発現株を構築し、6xFLAGを特異的に認識する抗体を用いてLytFの局在パターンを観察した。その結果、WTA枯渇細胞側面に見られる螺旋状パターンの蛍光強度並びに頻度が大幅に改善された。さらに興味深い結果として、必須遺伝子であるmreBの条件変異株において、シリンジ部にも螺旋状にLytFが局在することが明らかになった。このことは枯草菌において細胞側面のPGに対するWTAの修飾は、必須細胞骨格蛋白質であるMreB依存的に螺旋状に行われている可能性を強く示唆している。
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