研究概要 |
ゲノム全塩基配列が利用できる枯草菌ゲノム工学では、多数の遺伝子群によって支配される有用形質を、異なる遺伝的背景の株に効率よく移動させる技術が必要である。接合伝達(conjugational transfer)を用いて、巨大なDNAを枯草菌ゲノムベクター間で簡便に導入する手法の開発に取り組んだ。枯草菌は自然形質転換系が利用できるが、この方法で送り込めるDNAのサイズには技術的な限界があり、これをブレイクするためにも接合伝達系の構築が必要であった。本研究課題の成果で、初期の目的は達成された。また世界で枯草菌の接合伝達に本格的に取り組んでいるグループは見当たらないことが、2報の成果論文への反応によって確認した。具体的な成果を以下に記す。 16年度の成果:「納豆菌由来の接合伝達プラスミドpLS20の調製と塩基配列決定」 (1)pLS20を大量に調製し塩基配列を決定。接合伝達に必要なtypeIV secretion遺伝子群の存在を確認。 (2)pLS20の一部を枯草菌ゲノムベクター中に組み込んだ。 (3)接合伝達に利用可能な小型の安定なdelivery plasmidとして納豆菌からpLS30(6.6kb)を分離。mob遺伝子とoriTを確認。 17年度の成果:「pLS20による接合伝達システムの構築」 (1)pLS20に薬剤マーカーを付加したpLS20catを構築し、非常に安定な保持率を示した。 (2)pLS20cat自身の枯草菌間での接合伝達性を固形培地上で確認。さらに接合伝達の条件検討を行う過程で従来は報告されていない液体培養中でのkineticsを調べた結果、供与菌,受容菌ともに最適の接合伝達のタイミングがあることを発見。再現性のある接合伝達システムの標準実験プロトコールを確立した。 (3)pLS30に薬剤耐性マーカーを導入したpLS3001をpLS20catの接合伝達システム経由で、枯草菌間で接合伝達能を確認。小型の安定なdelivery plasmidとしての有効性が実証された。
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